はじめに
「南海トラフ地震が来るとは聞くけれど、自分の家で具体的に何をすればいいのかわからない」——沿岸や西日本にお住まいの方から、よく聞く声です。南海トラフ地震は、津波が数分で到達しうること、被害が広い範囲に同時に及ぶこと、そして発生前に「臨時情報」という独自のお知らせが出ることが、ほかの地震との大きな違いです。
この記事を読み終えるころには、(1) 津波からどう逃げるか、(2) 長期・広域の被害にどう備えるか、(3) 南海トラフ地震臨時情報が出たら何をするか——この3点を家族で決められるようになります。一度にすべてをそろえる必要はありません。今日できる1つから始めましょう。
備えや避難は「空振り」で構いません。揺れたら逃げる、情報が出たら備える——それを恥じず、平常時にルール化しておくことが、自分と家族の命を守ります。
なぜ重要か(最新データ)
政府の地震調査委員会は2025年9月、南海トラフ地震が今後30年以内に発生する確率を見直し、計算方法によって「60〜90%程度以上」と「20〜50%」の2つの値を併記しました(基準日は2025年1月1日)。値に幅はありますが、どちらの計算でも評価は最高ランクの「IIIランク(高い)」で、いつ起きてもおかしくないという位置づけは変わりません(出典: 地震調査研究推進本部)。
被害の規模も大きく、内閣府(中央防災会議)が2025年3月に公表した最大クラスの被害想定では、死者は最大で約29万8千人、うち津波による死者は約21万5千人、最大の津波高は約34メートルと見積もられています。一方で、早く避難すれば津波による死者は最大で約7割減らせるとも推計されています。つまり、被害の大部分は私たちの避難行動で減らせる、ということです(出典: 内閣府 被害想定)。
揺れは静岡県から宮崎県にかけての一部で最大震度7、周辺の広い地域でも震度6強〜6弱が想定されています。トラフ軸に近い沿岸では、強い揺れのあと数分で津波が到達しうるため、警報を待たずに逃げる準備が欠かせません(出典: 気象庁)。
ここで大切なのは、数字に圧倒されて立ちすくむことではなく、「逃げ方」「備え」「情報への対応」を先に決めておくことです。次の章から、その3点を具体的に見ていきます。
本論:南海トラフ地震に備える5つの行動
1. 津波からは「即・高所避難」を徹底する
南海トラフ地震では、沿岸に数分で津波が届くことがあります。津波警報やサイレンを待っていては間に合いません。強い揺れや、ゆっくり長く続く揺れを感じたら、すぐに少しでも高い場所へ逃げる——これが鉄則です。逃げる先は近くの高台、または鉄筋コンクリート造の高い建物(津波避難ビル)の上階。車での避難は渋滞で動けなくなりやすいため、原則は徒歩で。一度高い所へ逃げたら、警報が解除されるまで戻らないことも重要です。
2. 自宅の「海抜」と「避難先・避難経路」を確認する
平常時に、自宅や職場・学校の海抜(標高)と、最寄りの高台・津波避難ビルまでの経路を確認しておきます。市区町村のハザードマップで浸水想定と避難場所を調べ、実際に歩いて所要時間を測っておくと安心です。夜間・停電時でも迷わないよう、経路は家族で複数パターン共有を。沿岸でなくても、河川をさかのぼる津波(河川遡上)に注意が必要な地域があります。
3. 長期・広域被害を想定して「1週間以上」の備蓄をする
南海トラフ地震は被害が広い範囲に同時に及ぶため、道路の寸断や物流の停止が長引き、支援が届くまで時間がかかるおそれがあります。家庭の備蓄は、一般に推奨される最低3日分ではなく、できれば1週間分以上を目安にしましょう。飲料水は1人1日約3リットル、食料はレトルト・缶詰・乾麺など日持ちするものを中心に。停電・断水が長引く前提で、カセットコンロとボンベ、簡易トイレ、モバイルバッテリー、常備薬も多めにそろえます。普段から少し多めに買って使った分を補充する「ローリングストック」だと無理なく続けられます。
4. 「南海トラフ地震臨時情報」の意味を知っておく
南海トラフ地震臨時情報は、想定震源域やその周辺で異常な現象が観測されたときに気象庁が出すお知らせです。まず「調査中」(監視領域内でマグニチュード6.8以上の地震などの場合)が出て調査が始まり、その結果に応じて段階が示されます。
- 巨大地震警戒: 想定震源域のプレート境界でモーメントマグニチュード8.0以上の地震が起きたと評価された場合。後発の巨大地震に最大級の注意が必要な状態です。
- 巨大地震注意: モーメントマグニチュード7.0以上8.0未満の地震、または通常と異なるゆっくりすべりなどの場合。警戒よりは低いものの、平常時より注意が必要な状態です。
- 調査終了: いずれにも当てはまらないと評価された場合。ただし地震の可能性がなくなったわけではありません。
臨時情報が出ても必ず地震が起きるわけではなく、出ないまま地震が起きることもあります。情報はあくまで「備えを一段引き上げる合図」と理解しておきましょう(出典: 気象庁)。
5. 臨時情報が出たときの「行動」を決めておく
情報の種類ごとに、取るべき行動はあらかじめ決まっています(出典: 内閣府)。
- 「巨大地震警戒」が出たら: 津波の危険が高く、地震発生後の避難では間に合わないおそれのある「事前避難対象地域」の住民は、1週間を基本に事前の避難を行います。それ以外の人も、日頃の備えを再確認し、すぐ避難できる準備を整えて生活を続けます。
- 「巨大地震注意」が出たら: 事前避難は伴いませんが、約1週間、備えの再確認と「すぐ逃げられる準備」をして過ごします。家具の固定、持ち出し袋の点検、寝るときの避難経路の確認などを徹底します。
- 「調査終了」が出たら: 地震への注意を続けながら通常の生活に戻ります。
自分の住む地域が「事前避難対象地域」かどうかは市区町村で決められています。平常時に確認しておくことが、いざというときの迷いをなくします。
チェックリスト(保存・印刷可)
- ☐ 自宅・職場・学校の海抜と、最寄りの高台・津波避難ビルまでの経路を確認した
- ☐ 「強い揺れ・長い揺れを感じたら、警報を待たず高い所へ」を家族で共有した
- ☐ 飲料水(1人1日約3L)と食料を1週間分以上、ローリングストックで備えた
- ☐ 簡易トイレ・カセットコンロ・モバイルバッテリー・常備薬を多めに用意した
- ☐ 南海トラフ地震臨時情報「警戒/注意」が出たときの行動を決めた
- ☐ 自分の地域が「事前避難対象地域」かどうかを市区町村で確認した
対象別ワンポイント
- 子育て世帯: 子どもを連れて高所まで逃げる導線を、実際に歩いて確かめておきます。抱っこひもや子ども用の靴を持ち出しやすい場所に置き、保育園・学校の引き渡しと避難先のルールも事前に確認を。ミルク・離乳食・おむつは1週間分以上を多めに備えます。
- 高齢者: 避難に時間がかかるため、臨時情報「警戒」や強い揺れの段階で早めに動くことが命を守ります。事前避難対象地域なら、避難先や移動手段を家族・近隣とあらかじめ決めておきましょう。常備薬とお薬手帳のコピー、メガネ・補聴器の予備も忘れずに。
- 単身者: いざというとき、まず自分が率先して避難することが、周囲の避難を促す力にもなります。海抜と避難経路を一人で判断できるようにし、1週間分の備蓄と簡易トイレを確保。倒れていても気づいてもらえるよう、安否を知らせる連絡先を1つ決めておきます。
地域レイヤー補足
この記事は、南海トラフ地震の影響が懸念される地域に向けた地域レイヤーです。発生前の基本的な備え(備蓄・家具固定・持ち出し袋)は全国共通の記事も参考にしてください。そのうえで、お住まいの市区町村のハザードマップで浸水想定・避難場所・「事前避難対象地域」かどうかを必ず確認し、海抜や避難ビルといった地域固有の情報を上乗せしてください。詳しくは「自分のまちのリスクを確認する」もあわせてご覧ください。
まとめ
南海トラフ地震への備えは、(1) 津波からの即・高所避難、(2) 長期・広域被害に向けた1週間以上の備蓄、(3) 南海トラフ地震臨時情報への対応——この3点に集約されます。確率には幅がありますが、評価は「高い」のまま。被害の大部分は、私たちの早い避難で減らせます。今日はまず、自宅の海抜と避難先を確認することから始めましょう。
次のアクション(CTA): 「ハザードマップの見方|自宅の災害リスクと避難先の決め方」を見ながら、今週中に自宅の海抜と最寄りの津波避難ビル・高台を確認し、家族で避難経路を歩いてみましょう。
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出典
- 地震調査研究推進本部 地震調査委員会「南海トラフの地震活動の長期評価」を一部改訂(公表: 2025-09 / 最終確認: 2026-06-17) — https://www.jishin.go.jp/evaluation/long_term_evaluation/subduction_fault/summary_nankai/
- 気象庁 南海トラフ地震に関連する情報(臨時情報)(公表: 2025-09 / 最終確認: 2026-06-17) — https://www.data.jma.go.jp/eew/data/nteq/index.html
- 内閣府 防災情報のページ 南海トラフ地震臨時情報が発表されたら!(公表: 2025-03 / 最終確認: 2026-06-17) — https://www.bousai.go.jp/jishin/nankai/rinji/index4.html
- 中央防災会議 南海トラフ巨大地震 最大クラス地震における被害想定について(公表: 2025-03 / 最終確認: 2026-06-17) — https://www.bousai.go.jp/jishin/nankai/taisaku_wg_02/pdf/saidai_01.pdf
- 気象庁 南海トラフ地震で想定される震度や津波の高さ(公表: 2025-09 / 最終確認: 2026-06-17) — https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/jishin/nteq/assumption.html

