はじめに
大きな災害のあと、命が助かっても安心はできません。むしろ避難生活が長引くほど、体調や心の負担で命を落とす「災害関連死」のリスクが高まります。この記事では、被災直後から生活を立て直すまでの避難生活でやることを5つに整理します。完璧にこなす必要はなく、できることから一つずつで構いません。
最初の分かれ道は「自宅にとどまるか、避難所へ行くか」です。自宅が危険なのに我慢して残る必要はなく、避難所が合わなければ在宅避難に切り替えてもよい——「大げさだったかも」と感じることや、人に助けを求めることを恥じないでください。この柔軟さが、自分と家族の命と健康を守ります。
なぜ重要か(最新データ)
2025年12月に公表された内閣府の首都直下地震の新たな被害想定では、災害関連死は最大約1.6万〜4.1万人と推計され、これは火災や建物倒壊などによる直接死(最大約1.8万人)を上回りうる規模です(出典: 内閣府 首都直下地震の被害想定報告書〔2025-12〕。関連死者は直接死には含まれない)。報告書は、避難行動や避難生活で心身の負担が増えたり、平時の医療・介護を受けられなくなって健康状態が悪化したりして「膨大な避難者の発生による多くの災害関連死が発生するおそれ」を指摘しています。
つまり避難生活の質そのものが命を分けるということです。報告書も「災害関連死を防ぐため……トイレ・温かい食事・寝床等の整備、備蓄等による避難所等の生活環境向上を推進する必要がある」とし、2024年12月には内閣府の避難所運営ガイドライン(取組指針・運営チェックリスト・トイレ確保ガイドライン)が能登半島地震を踏まえて改定されました(出典: 内閣府 避難所の生活環境対策〔2024-12〕)。行政の備えに頼るだけでなく、私たち自身が「水分・運動・衛生・心のケア」を知っているかで関連死は減らせます。
本論:被災後の避難生活でやること TOP5
1. 在宅か避難所かを判断する|自分に合う避難先を選ぶ
まず「自宅にとどまれるか」を確かめます。倒壊や火災・浸水の危険がなく、ライフラインが途切れても水・食料・トイレを自力でまかなえるなら、住み慣れた自宅で過ごす在宅避難も有力な選択です。一方、建物が危険な場合や、停電・断水で生活が立ち行かない場合、医療・介護のケアが必要な場合は、ためらわず避難所へ向かいます。
避難所は混雑しやすく、感染症や体調悪化のリスクもあるため、合わなければ在宅避難に切り替える、親戚・知人宅やホテルなどへ移る「分散避難」も考えてよいでしょう。どこにいても、自分の居場所と安否を行政・家族に伝えておくことが、必要な支援を受け取る前提になります。
2. 災害関連死を防ぐ|水分・体動・口腔ケアを習慣に
避難生活で命を守る鍵が、「水分」「体を動かす」「口の清潔」の3つです。
- こまめに水分を取る: トイレを我慢して水分を控えると、血液が固まりやすくなり、足の血栓(深部静脈血栓症=エコノミークラス症候群)から肺塞栓を招くことがあります。厚生労働省は予防として「十分にこまめに水分を取る」「ときどき軽い体操やストレッチ運動」「かかとの上げ下ろしやふくらはぎのマッサージ」「眠るときは足をあげる」を挙げています(出典: 厚生労働省)。
- 体を動かす: 同じ姿勢で座り続けず、ときどき立って歩く・足首を動かす。車中泊では特に注意します。
- 口を清潔に保つ: 口の汚れは虫歯や歯周病だけでなく、唾液とともに細菌を吸い込む誤嚥性肺炎の原因になります。水が乏しくても、少量の水でのうがいや、ウェットティッシュ・歯みがきシートで歯と入れ歯を清潔に保ちましょう(出典: 新潟県「災害時の口腔ケア」)。
持病のある方は薬を切らさないよう早めに相談を。「眠れない」「食欲がない」といった反応は誰にでも起こりえます。無理をせず、保健師や医療・福祉の支援窓口に頼ってください。
3. 衛生を保つ|携帯トイレを正しく運用する
断水・停電や下水道の被害で、水洗トイレは流せなくなることが多くあります。汚れたトイレを我慢して水分を控えると、前項の関連死リスクに直結します。だからこそ携帯トイレ(便器にかぶせる便袋+凝固剤)の備えと運用が欠かせません。
備える量の目安は、内閣府ガイドラインが示す「トイレの使用回数は1人1日5回」を基準に、〔人数〕×〔日数〕×5回 で計算します。たとえば4人家族で7日分なら 4×7×5=140回分。備蓄は最低3日分、可能なら1週間分が目安です(出典: 内閣府「避難所におけるトイレの確保・管理ガイドライン」〔1日5回・備蓄日数の目安〕)。
運用のコツは、使用後の便袋は口をしっかり閉じ、フタ付きの容器やポリ袋で密閉し、決めた場所にためて定期回収へ回すこと。臭いと感染症を抑えられます。在宅避難でも、流せないトイレに無理に水を流さず、まず携帯トイレに切り替えましょう。
4. 子どもの心のケア|生活リズムと安心をつくる
災害は子どもの心に大きな負担を与えます。「赤ちゃん返り」「夜泣き」「甘え」「無口になる」などは、異常ではなく自然な反応です。叱ったり急がせたりせず、まずは安心させてあげましょう。
ケアの基本は生活リズムを保つこと。起きる・食べる・寝る時間をできるだけ普段に近づけ、可能なら遊びや勉強の時間をつくると、子どもは落ち着きを取り戻しやすくなります。スキンシップや「大丈夫だよ」の声かけ、できる範囲でのお手伝いをお願いすることも安心につながります。保護者自身が休息をとることも、結果的に子どもの安定を支えます。気になる様子が続くときは、避難所の保健師や子どもの相談窓口に早めに相談してください。
5. 生活再建に進む|罹災証明を取り、義援金詐欺に注意する
体調が落ち着いたら、生活再建の手続きに進みます。起点になるのが罹災証明書(りさいしょうめいしょ)。住まいの被害の程度を市区町村が公的に証明する書面で、被災者生活再建支援金・義援金・税の減免などに必要です。片付けや修理を始める前に、被害状況を写真で記録(建物の全景〔周囲4面〕・表札・被害箇所のアップ、浸水時は深さがわかる「引き」と「寄り」)してから、本人確認書類とともに窓口(オンライン・郵送対応の自治体も)へ申請します(出典: 京都市/大田区)。
住まいに大きな被害を受けた世帯には被災者生活再建支援制度の支援金(基礎・加算)があり、申請期間は基礎支援金が災害発生日から13か月以内、加算支援金が37か月以内が目安です(出典: 公益財団法人 都道府県センター)。
あわせて警戒したいのが義援金詐欺・災害便乗詐欺。消費者庁は「公的機関が各家庭に電話等で義援金を求めることは考えられない」と注意を促しています。振り込む前に団体名や使途を確認し、不審な電話・訪問・メールには応じず、消費者ホットライン「188」や警察相談専用電話「#9110」に相談しましょう(出典: 消費者庁)。
チェックリスト(保存・印刷可)
- ☐ 自宅の安全と備蓄を確かめ、在宅避難か避難所かを判断した(合わなければ切り替え・分散避難も検討)
- ☐ こまめに水分をとり、ときどき体を動かし(かかと上げ下ろし)、口を清潔に保った
- ☐ 携帯トイレを「人数×日数×1日5回」で備え、使用後は密閉して衛生的に運用した
- ☐ 子どもの生活リズムを保ち、声かけ・スキンシップで安心をつくった
- ☐ 片付け前に被害写真を撮り罹災証明を申請、支援制度を確認し、義援金詐欺に注意した
対象別ワンポイント
- 子育て世帯: 起床・食事・就寝の時間をできるだけ普段どおりにし、生活リズムを保ちます。ミルク・離乳食・おむつを確保し、「赤ちゃん返り」や夜泣きは叱らず受け止めて。母子健康手帳は健康相談や予防接種の確認に役立ちます。
- 高齢者: 同じ姿勢が続くとエコノミークラス症候群を起こしやすいので、水分とかかとの上げ下ろし・軽い歩行を意識して。持病の薬とお薬手帳(コピー可)を手元に、入れ歯の清掃で誤嚥性肺炎も防ぎます。手続きが負担なら家族や支援窓口に代理・付き添いを頼みましょう。
- 単身者: 孤立を防ぐため、無事と居場所を知らせる連絡先を決め、避難所や行政・SNSの公式情報で支援や物資の入手先をこまめに確認します。体調変化に気づきにくいので、水分・運動・睡眠を意識し、相談窓口を早めに頼りましょう。
地域レイヤー補足
ここでは全国共通の流れを扱いました。都市直下型地震が想定される地域では避難所が極度に混み合い、断水でトイレが使えなくなる規模も大きいため、携帯トイレの十分な備蓄と在宅避難の準備がより重要です。南海トラフの影響が懸念される沿岸地域では、長期の避難生活と津波・浸水被害の記録(浸水深の撮影)が再建の鍵になります。避難所運営や支援制度の運用は自治体ごとに異なるため、お住まいの自治体のページもあわせて確認してください。
まとめ
被災後の避難生活でやることは、(1) 在宅か避難所かの判断、(2) 関連死予防(水分・体動・口腔ケア)、(3) 衛生(携帯トイレの運用)、(4) 子どもの心のケア、(5) 生活再建(罹災証明・義援金詐欺対策)の5つに整理できます。とくに「水分を控えずトイレを我慢しない」「携帯トイレを正しく備える」は、首都直下地震の想定で直接死を上回りうる災害関連死を防ぐために欠かせません。
次のアクション(CTA): いますぐ、自宅の携帯トイレの備蓄量を「家族の人数 × 想定日数 × 1日5回」で計算し、足りない分を買い足しておきましょう。あわせて「在宅避難の準備 TOP5」で水・食料の備えも確認を。
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出典
- 内閣府 中央防災会議「首都直下地震の被害想定と対策について(報告書)」(公表: 2025-12 / 最終確認: 2026-06-17) — https://www.bousai.go.jp/jishin/syuto/taisaku_wg_02/pdf/r7houkoku3.pdf
- 内閣府 防災情報のページ「避難所の生活環境対策(自治体向けの避難所に関する取組指針・ガイドライン)」(改定: 2024-12 / 最終確認: 2026-06-17) — https://www.bousai.go.jp/taisaku/hinanjo/index.html
- 内閣府(防災担当)「避難所におけるトイレの確保・管理ガイドライン」(改定: 2024-12 / 最終確認: 2026-06-17) — https://www.bousai.go.jp/taisaku/hinanjo/pdf/1604hinanjo_toilet_guideline.pdf
- 厚生労働省「エコノミークラス症候群の予防のために」(最終確認: 2026-06-17) — https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000170807.html
- 新潟県「災害時の口腔ケアについて」(最終確認: 2026-06-17) — https://www.pref.niigata.lg.jp/sec/kenko/disaster-oral-care.html
- 京都市防災ポータルサイト「り災証明書・被災証明書について」(更新: 2026-03 / 最終確認: 2026-06-17) — https://www.bousai.city.kyoto.lg.jp/0000000184.html
- 大田区「り災証明書(罹災証明書)の発行について」(最終確認: 2026-06-17) — https://www.city.ota.tokyo.jp/seikatsu/chiiki/bousai/suigai/risai_syoumei.html
- 公益財団法人 都道府県センター「被災者生活再建支援事業 支援金支給概要」(最終確認: 2026-06-17) — https://www.tkai.jp/reconstruction/support.html
- 消費者庁「震災に関する義援金詐欺に御注意ください」(最終確認: 2026-06-17) — https://www.caa.go.jp/disaster/caution_001

