はじめに
「防災が大事なのはわかっているけれど、どこから手をつければいいのか実感がわかない」——抽象的な「備え」の話は、どうしても後回しになりがちです。そんなときに力になるのが、実際に起きた災害から見えてきた課題です。
この記事を読み終えるころには、過去5つの大災害(阪神・淡路/東日本/熊本/胆振東部/能登)の教訓を、自宅でできる具体的な備えに置き換えられるようになります。「自分は大丈夫」「今回は大したことにならない」と考えてしまう正常性バイアスは、避難や備えを遅らせます。避難は空振りで構いません。逃げること・備えることを恥じず、平常時に行動をルール化しておくことが、自分と家族を守ります。
過去の災害を「怖い話」として消費するのではなく、「だから我が家ではこうしよう」という一歩に変えていきましょう。
なぜ重要か(最新データ)
大きな災害ほど、被害は地震の揺れそのものだけでは終わりません。倒れた家具、停電、避難生活の負担、誤った情報——直接の被害のあとに生じる「二次の課題」で、多くの命や暮らしが脅かされてきました。これらの課題の多くは、事前の準備で減らせることが、公式の検証報告から繰り返し示されています。
たとえば熊本地震では、死者273人のうち地震の直接の被害(直接死)が50人だったのに対し、避難生活による体調悪化などの災害関連死が218人と、死者全体の約8割を占めました(出典: 復興庁ほか公的統計)。「揺れを生き延びたあと」をどう過ごすかが、命を分けたのです。だからこそ、過去事例を知ることは、自分の弱点を具体的に見つける近道になります。
本論:5つの災害「起きたこと→課題→事前対策」
1. 阪神・淡路大震災(1995):家具の転倒と通電火災
起きたこと:早朝の直下型地震で、死者の9割以上が当日午前6時までに亡くなり、その多くが家屋の倒壊や家具の転倒による窒息・圧死でした。地震が原因とみられる火災も計285件発生しています(出典: 内閣府 教訓情報資料集)。
課題:寝ている時間帯に家具が凶器になったこと。さらに、避難で留守にした家で、停電からの通電(送電)復旧に伴う電気火災が初期消火されないまま広がり、避難時のブレーカー遮断の必要性が指摘されました。
事前対策:背の高い家具はL字金具や突っ張り棒で固定し、寝室や出入口に倒れる物を置かない。避難時はブレーカーを落とす習慣をつけ、感震ブレーカーの設置も検討しましょう。
2. 東日本大震災(2011):津波からの避難の遅れ
起きたこと:警察庁が確認した死者の死因は、検視の結果その約9割(92.5%)が溺死で、広域の津波が被害の中心でした(出典: 警察庁による検視結果のまとめ)。一方、釜石市では日頃から避難の三原則「想定にとらわれるな/最善を尽くせ/率先避難者たれ」を学んでいた小中学生が、地震直後に自ら高台へ走り、ほぼ全員が生き延びました(出典: 内閣府 特集 東日本大震災から学ぶ)。
課題:「ここまでは来ないだろう」という思い込み(正常性バイアス)が避難を遅らせたこと。逆に、誰かが率先して逃げる姿が、周囲の避難を促しました。
事前対策:ハザードマップで自宅と避難先の標高・浸水想定を確認し、揺れたらまず高台へ動くと家族で決めておく。「念のため逃げる」を恥としない空気を家庭でつくりましょう。
3. 熊本地震(2016):車中泊と災害関連死
起きたこと:震度7が2度発生し、強い余震が続いたため、多くの人が自宅や避難所を避けて車中泊を選びました。その結果、直接死50人に対し災害関連死が218人(死者の約8割)にのぼり、長時間同じ姿勢でいることで起きるエコノミークラス症候群(肺などの血栓)も問題になりました(出典: 復興庁ほか公的統計)。
課題:避難の「その後」の健康管理。水分やトイレを我慢して足を動かさないと、血栓のリスクが高まるとされます。
事前対策:やむを得ず車中泊する場合も、こまめな水分補給・足の運動・足を伸ばせる工夫を意識する。簡易トイレを備え、「水分を控えない」を前提に準備しましょう。
4. 北海道胆振東部地震(2018):全域停電(ブラックアウト)
起きたこと:主力発電所の停止が連鎖し、北海道のほぼ全域、最大約295万戸が停電する日本初のエリア全域ブラックアウトが発生。おおむね全域への電力供給回復まで約45時間かかりました(出典: 資源エネルギー庁)。
課題:電気が止まると、照明・冷暖房・通信・調理・情報収集が同時に失われること。乳児のいる家庭では、ミルク用のお湯の確保なども切実な問題になりました。
事前対策:懐中電灯・ランタン、モバイルバッテリー、乾電池、カセットコンロとガスボンベを備える。停電でも調理・授乳ができるよう、お湯なしで使える液体ミルクや常温食も選択肢に加えましょう。
5. 能登半島地震(2024):孤立・断水・偽情報
起きたこと:道路の寸断で集落が孤立し、断水は最大約13.7万戸、地域によっては復旧まで数か月(最長で約5か月)を要しました。同時にSNSで偽・誤情報が拡散し、ある分析では「人工地震」とする投稿が約10万件確認されたほか、X(旧Twitter)では「救助要請」に関する投稿が約2.1万件にのぼり、その中には真偽不明・虚偽の投稿も含まれていました(出典: 総務省 令和6年版情報通信白書ほか)。
課題:支援が届きにくい孤立と長期断水への備え。加えて、災害時の誤情報が救助や復旧を妨げ、不安をあおったこと。
事前対策:飲料水・生活用水と簡易トイレを多めに確保し、孤立を前提に数日〜1週間分を備える。情報は自治体・公的機関などの一次情報で確認し、出所の不確かな投稿は拡散しないと決めておきましょう。
チェックリスト(保存・印刷可)
- ☐ 背の高い家具を固定し、寝室・出入口の安全を確保した(阪神)
- ☐ 避難時にブレーカーを落とす/感震ブレーカー設置を検討した(阪神)
- ☐ ハザードマップを確認し「揺れたらまず高台へ」を家族で決めた(東日本)
- ☐ 簡易トイレを備え、車中泊時も水分を控えない方針を共有した(熊本)
- ☐ 懐中電灯・モバイルバッテリー・カセットコンロを備えた(胆振)
- ☐ 飲料・生活用水を数日〜1週間分備えた(能登)
- ☐ 情報は公的な一次情報で確認し、不確かな投稿は拡散しないと決めた(能登)
対象別ワンポイント
- 子育て世帯:胆振東部の停電では授乳が課題になりました。お湯がいらない液体ミルク、おむつ・おしりふきを多めに。お気に入りの小さなおもちゃがあると避難先で子どもが落ち着けます。
- 高齢者:熊本のような車中泊では関連死リスクが高まります。常備薬とお薬手帳のコピーを1週間分用意し、足を伸ばして休める場所の確保を優先しましょう。持病が心配な症状は早めに医療者へ相談を。
- 単身者:能登のような孤立・断水に備え、在宅避難を基本に水・食料・簡易トイレを多めに。倒れていても気づいてもらえるよう、安否を知らせる連絡先を1つ決めておきます。
地域レイヤー補足
ここでは全国共通の教訓を扱いました。都市直下型地震が想定される地域では阪神・淡路の「家具固定・出火対策」、南海トラフ地震の影響が懸念される沿岸地域では東日本の「津波からの率先避難」の優先度がとくに高まります。お住まいの地域に固有のリスクは「自分のまちのハザードマップ」で確認し、必要な備えを上乗せしてください。
まとめ
5つの災害は、それぞれ違う課題を私たちに残しました——(1) 家具固定と通電火災(阪神)、(2) 津波からの率先避難(東日本)、(3) 車中泊と関連死(熊本)、(4) 全域停電(胆振)、(5) 孤立・断水・偽情報(能登)。共通するのは、どれも事前の準備で被害を減らせるということです。過去を「怖い話」で終わらせず、我が家の弱点を1つ見つけることから始めましょう。
次のアクション(CTA):5つの教訓のうち、自宅で起こりうる課題を1つだけ紙に書き出してみましょう。書き出した課題に、今週できる対策を1つ結びつければ、それが備えの第一歩です。
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出典
- 内閣府 防災情報のページ 阪神・淡路大震災教訓情報資料集【02】人的被害(公表: 2024-06 / 最終確認: 2026-06-17) — https://www.bousai.go.jp/kyoiku/kyokun/hanshin_awaji/data/detail/1-1-2.html
- 内閣府 防災情報のページ 阪神・淡路大震災教訓情報資料集【04】火災の発生と延焼拡大(公表: 2024-06 / 最終確認: 2026-06-17) — https://www.bousai.go.jp/kyoiku/kyokun/hanshin_awaji/data/detail/1-1-4.html
- 警察庁 令和3年版警察白書 東日本大震災の被害状況(総死者・行方不明者)(公表: 2021-07 / 最終確認: 2026-06-17) — https://www.npa.go.jp/hakusyo/r03/honbun/html/xf111000.html
- 内閣府 防災情報のページ 特集 東日本大震災から学ぶ〜いかに生き延びたか〜(釜石の避難三原則)(公表: 2024-06 / 最終確認: 2026-06-17) — https://www.bousai.go.jp/kohou/kouhoubousai/h23/64/special_01.html
- 復興庁 東日本大震災における震災関連死の死者数(熊本地震を含む関連死統計の参照元)(公表: 2021-06 / 最終確認: 2026-06-17) — https://www.reconstruction.go.jp/topics/main-cat2/sub-cat2-6/20210630_kanrenshi.pdf
- 資源エネルギー庁 日本初の“ブラックアウト”、その時一体何が起きたのか(公表: 2019-03 / 最終確認: 2026-06-17) — https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/blackout.html
- 総務省 令和6年版情報通信白書 災害時における偽・誤情報への対応(公表: 2024-07 / 最終確認: 2026-06-17) — https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r06/html/nd122c00.html

